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ビッグデータでお客様の本音が分かるか

冬夏青々 第12回

2019年05月14日

最先端技術

常任参与
稲葉 延雄

 昨今、ビジネス界ではビッグデータ収集の動きが活発化している。将来予測の際などでビッグデータとAI(人工知能)を組み合わせると、より正確な結論が得られるのではないか―という考えがその背後にある。中国でモバイル決済が急進展している裏からも、それによって膨大な顧客の買い物情報を集め、販売促進に役立てようという思惑が透けて見える。

 こうした動きは今に始まった話ではない。かつて日本の金融界でも、評点制度(スコアリング)によって貸出先の信用度を判定するモデルを作ろうと競い合ったことがある。だが今ではあまり使われていない。いくら多くの項目で評点付けをしても、借り入れを踏み倒すつもりがあるかないか、その本音が分からないからだ。結局、貸出実行の判定は点数だけでは困難なのである。中国の電子商取引最大手アリババも、信用判定システム「セサミ・クレジット」を構築したが、十分活用するには至っていないという。

 顧客が本心をなかなか明かさないという習性は、販売担当スタッフには周知の事実であろう。このため、販売サイドの工夫として、顧客とはできるだけ長期間の取引継続(long-term customer relationship)を心掛け、相互に強い信頼関係を確立する。その上で顧客の本音を探り出し、それを将来の開発や生産、販売に活かそうと懸命なのである。当社が世界各地に販売拠点を置き、直売システムを重視する理由もここにある。これに対し、ビッグデータで顧客の本音を引き出そうとする安易な試みは、まず失敗するだろう。

 もちろん、ビッグデータが有用な場合もある。例えば、われわれに身近な事務機器に関しては、その消耗品の使い切り見込みとか、必要点検日の予測などである。さまざまな要因が影響するかもしれないが、使っている人の思惑が入り込みにくいため、ビッグデータ活用によって予測精度は上がる。医療分野では、ウイルスや細菌の活動を探るためのビッグデータ収集が、将来の治療の進歩に必ず役立つだろう。人間と違いウイルスや細菌はウソをつかず、将来行動を予測しやすいからだ。

 このように、ビッグデータの収集・分析・活用は分野を適切に選別すれば、われわれのビジネスにとって、またお客様にも大きな力となる。このためビッグデータに関しては、デジタル企業として全力を挙げて自ら取り組んだり、お客様の取り組みを支援したりすべきである。しかしその前に、どの分野のビッグデータ収集が有用なのか、「見極める力」を持つことが是非必要になる。どの企業にも無駄なビッグデータを集める余裕などないからだ。


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稲葉 延雄

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※この記事は、2019年3月29日発行のHeadLineに掲載されました。

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